物理シミュレーション技術で、年配者のゲーム人口を増やせないか?

 Itmedia オルタナティブ・ブログでの、本田雅一さんのPlayStation3試作機のレポートが話題になっている。コメントやトラックバックを付けている読者の間での話題はPS3試作機のハードウェア性能やE3のデモ映像の話題になっているようだが、本田さんが注目しているのはCellが可能性として持つ、物理シミュレーションの性能のようだ。

 さて、話はいったん変わる。PlayStationシリーズの開発元であるSCEIが以前より行っている運動のひとつに、「諸兄、ゲームやろうぜ!」活動というものがある。この「団塊世代に向けたテレビゲーム啓蒙活動」(同ページより)は、これはゲーム人口を上に広げ、ゲームの社会的立場の改善や、将来の業界の縮小を防ぐためのものだ。
 この活動は発熱地帯さんの『高まるゲームバッシングと「ゲームをしない人→する人」への努力』で詳細に触れられているが、こうした年配者の取り込みは、ゲーム業界には重要な事項だろう。

 ところで、年配者にゲームをプレイさせるという命題に対して、ゲーム側でできることは何があるだろうか?
年配者に対しては、そもそも“コントローラの壁”があまりに高い気がするので、その面での敷居を下げることも重要だろう。しかしそれと同時に、“コントローラを握ってからの壁”を下げる必要もあるはずだ。
 私が年配者に対する壁のひとつではないか、と考えているのが、ゲームの物理挙動だ。つまり、ゲーム慣れしているユーザーからは十分リアルに見える挙動でも、ゲーム慣れしていない年配者にとっては現実世界の挙動と差がありすぎて違和感が生じ、ゲーム内の挙動法則を習得する(慣れる)前にゲームをあきらめてしまっているのではないか……と考えているのだ。*1
 年長者がスポーツゲームを見ていると出てくる(私の周辺の年配者だけが言っているだけかもしれないが……)「絵はすごく綺麗なんだけど、なにかこう、動きが違う」といった意見の原因のひとつは、長い人生経験で磨き上げられた物理挙動に対するカンが発する抵抗感ではないだろうか*2

 ならば、年配者にゲームをプレイしてもらうためには、ゲーム自体が年配者の感覚――つまり現実の物理挙動へ――可能な限り近く進化する必要性もあるのではないだろうか。
 そして、そのためにPlayStation 3(だけでなく、XBOX 360でもいい)などの高度な物理シミュレーション能力を使えないだろうか?

 別に何万ポリゴンに渡る巨大なオブジェクトの衝突判定や、完全なワールドシミュレーションでなくてもいい(確かにそれも重要だとは思うが……)。「ボールに対する重力や慣性、風の影響」など、本当に身近な、シンプルなものでいい。こうした“身近でありながらも、現実に近づけるには真面目な計算を必要とする挙動”を真正面からシミュレーションし、可能な限り現実に近づけることで、以下のような効果が期待できるのではないだろうか。

  • 年配者の持つ、ゲームの動きの違和感を取り除き、ひいてはゲームに対する抵抗感を減らす
  • 年配者に若年者より有利なゲーム条件を提示する(物理挙動が現実に近いほど、基本的には現実での経験を積んだ者が有利になるはず)

 私は、こうした理由で、「物理シミュレーションによる現実的な動きで、年配者に対するゲームの敷居を下げ、年配者のゲーム人口を増やす」というアプローチは、一定の有効度があるのではなかろうか、と考えるのだ。
 これは私が考えている妄想で、綺麗事に過ぎない。しかし、現在のゲーム業界は、年配者でありながら「コントローラを握る」という高い壁を越えてきた方々に対しては、最大限の敬意と誠意を持って迎える必要があるだろう。そうした貴重な人材は、1人であっても失う余裕はないはずだから。

*1:これは冗談のような例だが、ゲーム内の挙動法則が限度を超えて現実世界から離れていると、ゲーマーでさえも慣れる前にあきらめてしまうことがある。一部のオールドゲーマーの間では有名な「ヴァリスIII」の“ジャンプでは飛び越せないが、スライディングで通れる穴”などは好例だろう。あんなんわかるか(笑)。

*2:ちなみに、上述した「諸兄、ゲームやろうぜ!」で人気のあるタイトルとしては、SCEIの「みんなでGOLF」シリーズがある。スポーツゲームは年配者でも入り込める余地が大きく、開拓の余地がある市場ではなかろうか